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英語学基礎 Vol.4 - 英語の語彙②(意味の下落と向上)-

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英語

目次

1. 意味の下落

意味の下落は言葉の意味が良いものから悪いものに歴史的に変化することを言う。
"silly"と言う単語を例として取り上げる。
Oxford English Dictionaryで意味と起源を確認する。
なお、引用部は便宜を図り和訳を掲載する。

1-1. 意味

1 常識や判断力が欠けている、愚かで馬鹿な状態
   1.1 馬鹿らしいほど取るに足らない、または不真面目である
   1.2 [叙述用法] かつては、人が分別を弁えて思考したり行動を行うことがもはや出来ないくらいの活動、過程を意味した
2 古語(特に女性、子ども、動物が)頼りない; 無防備な
3 クリケット(スポーツ) [限定用法](守備位置が)打者に近い 出典: Oxford English Dictionary

1-2. 起源

中英語後期(「同情や憐憫に値する」と言う意味で使われた): 西ゲルマン語の元々の「幸運な、恵まれた」の意味が後に「無垢な、ひ弱な」と言う意味に変化した。
「洗練されていない、無知な」と言う意味変化を経て「愚かな」と言う意味になった。 出典: Oxford English Dictionary

1-3. 詳細

"silly"は現代英語においては否定的な意味を持っているが、元々は良い意味で使われていた。
意味の変遷を時系列でまとめると以下の通りになる。

幸運な、幸せな、(神に)祝福された
=> 敬虔な、無垢な
=> 世間知らずな、うぶな
=> 哀れな、惨めな、ひ弱な
=> 馬鹿な

この変化はどのようにして起きたのだろうか。

古英語の時代、王のような幸運で恵まれた人を指した。
そういった人は幸せで神に祝福されているとみなされるようになった。
そのような人は概して経験で無垢だ。
やがて周りの人々はそういった人を世間知らずでうぶだとみなした。
そういう人は意味もなく苦しめられる対象となり、やがて哀れなで、惨めで、ひ弱だとみなされた。
惨めな人は思慮が浅く、愚かとみなされるようになった。

同様の例を以下に示す。

単語 原義 現在の意味
knave 古英語の "cnafa" はゲルマン語由来で「召使い」を意味した。ドイツ語の "Knabe" と関連がある 悪党、ごろつき
villain ある状況下においてトラブルや害悪の全責任を負う者 悪党、悪人
cunning 中英語: 「知識」を意味する古ノルド語の "kunnandi" やその名詞形の "kunna"、もしくは今は廃れた "can" を表す中英語の "cunne" が由来の可能性がある。元々は博学さや技能を持っている状態を意味し、「騙す」ような意味合いはなかった。この否定的な意味は中英語後期から持つようになった ずるい、狡猾な

2. 意味の向上

意味の下落は言葉の意味が悪いものから良いものに歴史的に変化することを言う。
"nice"と言う単語を例として取り上げる。
Oxford English Dictionaryで意味と起源を確認する。
なお、引用部は例のごとく便宜を図り和訳を掲載する。

2-1. 意味

1 喜びや満足感を与えるような、愉快で魅力的な状態
   1.1(人が)性格が良い、親切な
   1.2 風刺的 良くない、不愉快な
2(違いが)僅かな、微妙な
   2.1 思慮深さを求めている状態
3 古語 気難しい、几帳面な 出典: Oxford English Dictionary

2-2. 起源

中英語(「愚かな」と言う意味で使われていた): 古フランス語、ラテン語の「無知な」を意味する "nescius"、「知らない」を意味する "nescire" が由来。
初期の他の意味は「遠慮がちな、控えめな」があり、「気難しい、几帳面な」という意味になり、やがて「細かい、微妙な」を意味した。その後「正確な」を意味するようになった。 出典: Oxford English Dictionary

2-3. 詳細

"nice"は現代英語では良い意味で使われるが、元々は否定的な意味を持っていた。
意味の変遷を時系列でまとめると以下の通りになる。

愚かな、馬鹿な
=> 無慈悲な、わがままな
=> 気難しい、小うるさい
=> 扱いづらい
=> 細かい、微妙な
=> 正確な、重要な
=> 非常に精密な
=> 愉快な、魅力的な

元々の「愚かな、馬鹿な」が「無慈悲な、わがままな」を意味するようになった。
そのような人は「気難しい、小うるさい」、「扱いづらい」をみなされた。
そのような気質の人は「細かく繊細」で、「非常に細部まで精密な」人と評価された。
そして 17 - 18世紀の間に、現在の「愉快な、魅力的な」という意味になった。

同様の例を以下に示す。

単語 原義 現在の意味
boy 中世語においては男性の召使いを意味した。起源は不明 少年
fame 中英語において「評判」の意味もあり、「売春宿」のhouse of ill fameに意味が残っている。古フランス語経由ラテン語由来の "fama" が起源 名声、評判
pretty 古英語 "prættig" が起源。中オランダ語の「活発な、賢い」を意味する "pertich"、オランダ語の死語「ユーモアのある、派手な」が由来。「嘘つきな、ずる賢い、利口な、上手な、立派な、愉快な、良い」の意味の発展の類似する例は、"canny", "fine", "nice" などの形容詞にも認められる。 美しい、可愛い

3. まとめ

  1. 意味の下落: 良いも意味から悪いものに歴史的に変化すること
  2. 意味の向上: 悪いも意味から良いものに歴史的に変化すること

4. 参考文献

  • 菊池清明・唐沢一友・小池剛史・堀田隆一・福田一貴・貝塚泰幸・松崎武志、『英語学:現代英語をより深く知るために-現代英語の諸相と英語学術語解説-』大阪府、浪漫書房、2008年
  • Oxford English Dictionary
    • silly - 最終アクセス日: 2019年09月01日
    • nice - 最終アクセス日: 2019年09月01日
    • knave - 最終アクセス日: 2019年09月01日
    • villain - 最終アクセス日: 2019年09月01日
    • cunning - 最終アクセス日: 2019年09月01日
    • boy - 最終アクセス日: 2019年09月01日
    • fame - 最終アクセス日: 2019年09月01日
    • house of ill fame - 最終アクセス日: 2019年09月01日
    • pretty - 最終アクセス日: 2019年09月01日